周年記念誌のタイプ(コミュニケーションか、歴史を残すか)

周年記念誌の目的や内容は、大きく分けて、今2つのタイプがあるように思います。
ひとつは、団体や会社が現在に至ったことを感謝して、お世話になった方々に謝意を伝え、求心力を高める役割も果たすような記念誌。
もうひとつは、団体や会社がここまで歩んでこられた歴史を正確に残し、後世に伝えようとする記念誌、です。
前者を「コミュニケーション重視の記念誌」、後者を「歴史を残す記念誌」といえばいいでしょうか。(詳しくは、記念誌・社史のページをご覧ください)

もちろん、ほとんどの記念誌はどちらの要素も持っているので、程度の差ではあります。

コミュニケーション重視の記念誌」は、たくさんの人に登場していただき、いろいろな場面の写真を多用し、デザインも工夫してビジュアルに訴え判りやすい誌面が重視されます。簡単にいうと、パラパラ見て楽しい、判りやすい、という感じでしょうか。

実際、多くの人に見ていただき、喜んでもらいやすいのが、こちらのタイプの記念誌です。
また近年、紙媒体のデザイン処理や画像処理がどんどん容易になっていて、見た目にアピールしやすい誌面は飛躍的に作りやすくなっています。

そうした技術面の背景もあって、コミュニケーション重視の記念誌が増えている気がします。

歴史を残すことの大変さと大切さ

一方、「歴史を残す記念誌」は、昔ながらの地道で膨大な作業が必須です。

古い資料を紐解き、読み込み、整理する。
不明点や矛盾点を、いろいろな方法で調べなおす。

そんな作業に、時間をかけてまじめに取り組んではじめて、後世に残すに値する記録が完成します。

特に中小規模の団体や会社にとっては、現実にそれだけの手間を、記念誌にかけにくいかもしれません。
コミュニケーション重視の記念誌がラクに簡単にできるとは言いませんが、歴史を残すための作業は、コミュニケーション重視の誌面作りの作業と比べると、デジタル技術の進化の恩恵を受けにくい作業でもあります。資料整理も原稿作成も、結局人の手を煩わせる面が大きいのです。

少し違う話ですが、今ネット上で、過去には想像できなかったほど大量の情報があふれています。検索サイト対策として量を確保する目的で作られたようなコンテンツだと、類似ページからコピペした記事を激安のリライト料で書き直したようなコンテンツも、少なからずあります。
そのような質の低いコンテンツとは異なりますが、身の回りのことを友人に書き送るようなコンテンツも、爆発的に増えたと思います。

それらに比べると、「過去の事象を正しく残す」ような情報は、何かの必要があって探してみると、意外と見つかりません。あふれている情報の中でも、激増したのは商業主義的な情報や日常記事のような、「コミュニケーションのための情報」なのではないでしょうか。

同じ傾向が、記念誌にもあるのかもしれません。コミュニケーションのための情報と比べて、過去を記録するための情報には手をかけない傾向が、強まっている気がします。
ひとつの団体や会社の歴史を残すことがそれほど必要かと言われたらそれまでなんですが、過去の記録というのは、地味だしすぐ役立つと思われにくいけれども、意識しなければ散逸するばかりです。
「社史なんて誰も読まないからねー」と言う人もいますが、以前「日本ボランティア・NPO・市民活動年表」を作るプロジェクトに関わったときには、たくさんの見知らぬ人がまとめられた団体史や活動史に、どれだけ助けられたか知れません。(少なくとも私は、それらの社史を真剣に読んだのだ!)

最近関わらせていただいた周年記念誌が、まさに「歴史を残す」ことに正面から取り組まれた記念誌でした。
そんなことから、歴史を残すことの大変さと大切さを、あらためて思いました。

初回投稿2014年3月30日、2016年8月23日修正